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地質リスク

地質リスク調査検討、発注方法など

地質リスクマネジメントとは

建設工事において品質を確保すると同時に建設コストの増額を抑えることが大きな命題であることは言うまでもありません。ところが、それを大きく阻害するような工事中の事故・トラブルが後を絶ちません。なかでも、2015年に発覚した横浜マンション事件や2016年に発生した博多駅前の道路陥没事故は、社会の大きな注目を集めた事象でしたが、いずれも地質・地盤の不確実性に対する理解不足や対応が本質的な原因の一つであったと言えます。このような不確実性が地質リスクで、全地連では「地質に関する事業リスク(特に事業コスト損失とその不確実性)」として定義しています。建設コストへの影響を念頭においていますが、当然のことながら工事の安全な遂行や、結果的に工事の品質や生産性の向上への影響も入ります。
地質リスクマネジメントは、このような地質リスクを抽出、分析・評価し、最適な対応を実施する継続的なプロセスのことを言います。地質リスクへの対応は、事業の進捗がある程度進んでくると取りうる対策に限りが生じてしまいます。そのため、できるだけ早い段階、できれば計画・構想段階から地質リスクの検討を始めれば取りうる対応の選択肢が多くなるため有利に事業を進めることが可能となります。そして、事業の進捗に応じて追加調査結果など新たに得られる情報に応じて繰り返し検討することでマネジメントの精度を高めることができます。

全地連における活動と国等の動向

全地連の活動経緯

全地連では、2005年度に技術委員会の下に地質リスクWGを発足し、地質リスクに関する調査・研究を開始しました。その活動の主目的は、地質技術者が地質リスクマネジメントを通じて国の大命題であった建設工事のコスト縮減に寄与することです。さらに、2009年度に設立された地質リスク学会 (渡邊法美会長)と協働し、事例研究と並行して地質リスクマネジメントの体系化、マネジメント効果の定量化、海外の動向調査等を行ってきました。これらの成果は報告書(外部リンク) としてアーカイブされています。なかでも、事例研究に関しては、地質リスク事例研究発表会(外部リンク) が2010年から毎年開催され現在でも継続しています。また、研究成果に基づく一般向けの書籍『地質リスクマネジメント入門』(オーム社、2010年)や、英国の著名なマネジメントの報告書を訳した『ジオリスクマネジメント』(古今書院、2016年)を発行しています。
全地連は、地質リスクマネジメントを普及させるうえで、その中核的な役割を担う「地質リスク調査検討業務」の発注を提案しました。2016年度には発注の参考となる『地質リスク調査検討業務発注ガイド』を公表し、さらに、2021年度には業務の発注や実施に役立つ資料として『地質リスク調査検討業務の手引き』 を公表しました。そして、これらの資料に基づき地質リスクマネジメントの理解促進や普及のための講習会を全国で実施してきました。

国や学会等の動向

国土交通省においては、社会資本整備審議会・交通政策審議会による答申「地下空間の利活用に関する安全技術の確立について」(2017年3月)を踏まえて、2020年3月に「土木事業における地質・地盤リスクマネジメントの運用ガイドライン」を公表しました。このガイドイラインは、地質や地盤が有する不確実性の影響すなわち地質リスクによる事故・トラブルの発生を最小化して安全かつ効率的に事業を進めるためのリスクマネジメントの基本的な考えを示したものです。このガイドラインで地質リスク調査検討業務の位置づけや価値が明瞭となり、上述した『地質リスク調査検討業務の手引き』の作成へとつながりました。
また、国土交通省では業務の品質確保を目的として、合同現地踏査等へ地質技術者を参画させることを始めました(令和2年度「設計業務等の品質確保対策及び入札契約方式の改善等」重点方針)。これにより地質リスクマネジメントの一環として地質リスクを関係者間で情報共有することが」期待できます。
関係学会においても地質リスクマネジメントへの理解が広まってきました。地盤工学会では、「地盤工学のあり方―応用地質学と地盤工学の協働を考える―研究委員会」(末岡徹委員長)が2022年3月に提言 を公表し、地質・地盤リスクについて言及しています。また、「地盤工学の社会的地位向上推進委員会」(東畑郁生委員長)は成果報告書(2022年3月)においてジオリスク・マネジメントが重要で地質調査費をより増加させることでトラブル回避につながり、さらに地盤工学エンジニアの地位向上に役立つと主張しています。土木学会では、「地盤の課題と可能性に関する総合検討会」(2021.1~2023、委員長:土木学会長)が2022年9月に学会声明 を公表し、地盤リスクマネジメントの重要性について言及しています。

地質リスク調査検討業務

この業務は、下図のような流れで実施されるもので、既存資料や現地踏査に基づく地質リスク情報の抽出、各要因の分析による地質リスクランクの評価、リスク対応の検討などを行い、地質リスク管理表や引継ぎ表などを整理し、次工程に役立つ情報を整理する業務です。
この業務は、国土交通省においては全国の道路を中心とした事業にプロポーザル方式で発注されています。また、国土交通省以外に高速道路会社、都道府県等でも発注が増えつつあります。今後、徐々に適用分野が広がるものと考えられます。

地質リスク・エンジニア(GRE)認定試験制度

全地連では、地質リスクマネジメントを担う技術者の育成・教育を目的として地質リスク・エンジニア(GRE)認定制度を2015年度から開始しました。この資格は、地形・地質や地盤に関する高度な専門知識と経験ならびに地質や地盤に関連したリスクマネジメント力を有する高度な技術者です。2022年度からはこれらの能力をより厳格に確認することを目的として認定試験制度へのレベルアップを行いました。この資格を活用すべき業務は、地質リスク調査検討業務の管理技術者を始めとして、地方公共団体の地質リスクマネジメントに関する発注者支援業務、事業推進PPPやCMなどのプロジェクトにおける地質リスクサブマネージャーあるいは地質リスクアドバイザーとしての契約が有望です。

マニュアル・報告書・事例研究論文

マニュアル

『地質リスク調査検討業務の手引き』
『地質リスク調査検討業務発注ガイド』

報告書

「地質リスク分析のためのデータ収集様式の研究」 2008,高知工科大学 フロンティア工学教室 渡邊法美
(財)日本建設情報総合センターの助成事業として高知工科大学の渡邊法美教授を委員長に研究を進めた「地質リスク分析のためのデータ収集様式の研究」の報告書です。
成果報告書
発表用PPT

「地質リスクに関する調査・研究報告書」  2007,全国地質調査業協会連合会
平成18年度事業として財団法人建設業振興基金の助成金による建設産業構造改善事業として「地質リスクに関する調査・研究」報告書をまとめ、平成19年3月16日に成果普及講習会を開催いたしました。

「地質に係わる事業リスク検討報告書」  2006,全国地質調査業協会連合会
全地連技術委員会の地質リスクWGで平成17年度に取りまとめた報告書をご紹介いたします。「地質リスク」という側面から地質調査の重要性についてまとめております。

「地質リスク海外調査ミッション(米国)報告書」  2007,全国地質調査業協会連合会
全地連では、平成19年9月30日~10月5日の6日間、アメリカのサンフランシスコに"「地質リスク」海外調査ミッション"を派遣いたしました。ミッションの目的は、全地連で進めている「地質リスク」に関する活動を進める上で、海外の事情・動向を迅速かつ的確に把握することにあり、研究機関・政府機関・企業等を訪問し、関係者と精力的にディスカッションを行い意見交換を実施いたしました。

「地質リスク海外調査ミッション(英国)報告書」 2017,地質リスク学会,全国地質調査業協会連合会
地質リスク学会では、2017年10月22日~29日の8日間、“地質リスク海外調査ミッション”の調査団をイギリス(ロンドン)に派遣いたしました。
今回のミッションは、当学会における今までの活動成果を踏まえ、地質リスクの海外事例を収集することで、今後の活動の幅を拡げ発注者への提言に繋げることを主な目的にしております。

「地質リスクとリスクマネージメント」シンポジウム講演集」 2008,産業技術総合研究所,全国地質調査業協会連合会
平成20年3月11日に開催されされました標記シンポジウムの講演集をご紹介いたします。

地質リスクマネジメント事例研究発表会 講演論文集

地質リスクマネジメント事例研究発表会や全地連技術フォーラムにおける地質リスクマネジメントに関する研究論文を掲載しております。

 

※2010年の事例研究会 会長挨拶のPPT

セミナー動画 スキルアップ講習会(2023年11月)