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全地連について

協会概要や組織、沿革の紹介

日本応用地質学会と社団法人全国地質調査業協会連合会では、兵庫県南部地震の発生以後、共同で、調査研究を続け、都市における地震防災計画の基礎資料となる「地盤図」のあるべき姿について検討を進めてまいりました。とくに、注目したのは、特別異常な地震とは考えられないマグニチュード7.2の地震が神戸市の直下で発生したとはいえ、どうしてあれだけの大被害を生じたのか、何故、特異な“震災の帯”が出現したのか、であります。この問題は今後も研究を要する課題でありますが、深部に及ぶ地質構造が大きく関与している可能性が強いことが明らかにされております。

一方、産業や人口の集中する都市の多くは将来の地震に対して大きなリスクを持つにもかかわらず、その深部の地質構造はほとんど調査されていないのが現状であり、早急に系統的な調査計画の樹立と実行が必要であるという結論に達しました。

ここに、次のとおり「都市地震防災地盤図」の整備について提言するものであります。

1.なぜ「都市地震防災地盤図」なのか

(1)兵庫県南部地震の教訓と震災の要因

1995年1月17日未明に発生した兵庫県南部地震(M7.2)は、阪神・淡路地方に甚大な人的・物的被害をもたらしました。この被害の特徴の一つとして、六甲山麓地平野を幅1ー2km、東西方向に神戸市須磨区から西宮市に及ぶ延長25kmに及ぶ、いわゆる“震災の帯”が生じたことが挙げられます。

この大震災から得られた多くの教訓のうちから、

1)地震そのものは中規模程度の地震(M7.2)で、特殊な地震とは言えないものであったにも拘らず、活断層の破壊に起因する内陸型、都市直下型の地震として、甚大な被害をもたらした。
2)神戸市平野部の地盤は、これまで比較的良好とされてきた砂礫地盤(地盤種別II種、N≧30)の分布する区域であったにも拘らず、予想をはるかに上回る被害、いわゆる“震災の帯”が生じた。また、震源地より40km以上遠く離れた宝塚市や大阪市でも同様の帯状の被害集中域が生じた。
3)また、神戸では六甲山地の活断層の分布について,他地域よりも詳細な調査研究が進んでいたにも拘らず、地盤図やサイスミックマイクロゾーニングマップなどは未整備であり、かつ深部の地質調査は不十分で、六甲山麓平野地区の深い地質構造は明らかにされていなかった。

などが挙げられます。

震災後に、地質調査所や兵庫県などで実施された調査と解析結果から、次のような事実が明らかにされました。

1)六甲山麓の平野部の地下には、落差1000~1500mに及ぶ逆断層を伴う特異な深部地質構造を有すること。
2)これら特異な深い地質構造に起因した、基盤から被覆層への地震波動の焦点効果(フォーカシング)などにより、異常な“震災の帯”が説明できる。
3)表層の地盤特性や不整形地盤構造が、地震波の増幅の程度を左右し、被害の差を生じた点も認められるものの、深部構造の影響を考慮すること無しには“震災の帯”を説明することは難しい。

このように、従来言われていた被害と地盤種別との関係が当てはまらないこと、断層を有する地質構造によって被害が大きく影響を受けることについては、神戸市域のみの特殊条件とは言い切れず、多くの大都市の深部地質構造が未調査、未整備な状況から、とくに深部地質構造ならびにその動的物性に関する調査研究の要があると判断いたします。

これは、現在科学技術庁などが中心になって進めている、地震対策特別措置法にもとづく、強震計ネットワークの整備、GPS測地基準点の整備、活断層の系統的調査、各地方自治体のマイクロゾーネーション調査などと同等以上の重要度・緊急度のある問題と考えられます。

(2)地震予知と地震防災計画

地震が何時どこで起こるかの予測は極めて困難であり、今後とも早期に確実な地震予知が出来るとは考えられません。しかし、我が国は海域で起こる巨大地震ばかりでなく、兵庫県南部地震のような内陸で比較的震源の浅い(直下型)地震が今後とも都市圏で発生する可能性が極めて高い状況にあると考える必要があります。

こうした背景下、阪神淡路大震災の教訓を生かすためにも、地震が発生した場合に被害を出来るだけ低減できる地震防災対策を推進することが急務であります。とりわけ、大都市圏や主要地方都市圏を中心に、地域防災計画の一環として、都市の地震防災対策計画を進めていくことが早急に必要であります。

これら計画の推進には、重要度の高いものから、緊急度の高いものから、優先順位を定め、調査研究を速やかに推進し、防災計画の具体的な検討資料とする必要があるものと考えます。

(3)「都市地震防災地盤図」の必要性

兵庫県南部地震やアメリカのノースリッジ地震に代表される都市直下型地震の被害状況調査結果によれば、被害は、震源断層近傍のみならず、そこからかなり離れた地区でも大規模に発生しています。

これらを地震動と地盤と構造物の関係で見ると、①表層の地盤種別とその分布構造、②人工改変地盤や地形構造、③地下深部の地質構造、④浅部のみならず地下深部の地下水の分布、などが大きく関与していることが指摘されています。

地表から数十メートルまでの表層の地盤地質に関する情報を提供することを主目的としてきた従来の地盤図では、①、②の内容は満足することは出来ますが、③、④のような深い地下地質構造が与える影響の解析などは出来ません。

従来、そして阪神大震災の後、地方自治体が地域防災計画の一環として作成しているサイスミックマイクロゾーニングでも、表層地盤の地質・土質をもとに、比較的浅い深度に設定した地震基盤に地震波を入力し、表層を通じての一次元応答解析を行い地表における震度や応答加速度を求めるのが普通であります。このような解析方法では、仮に神戸と同じように地下深部に断層構造があり、それによる地震波の反射・屈折の影響や、フォーカシングと呼ばれるような現象で特殊な増幅現象がおこり、震災の帯が発生するような条件にあったとしても、その影響を評価することが出来ません。

兵庫県南部地震で、地表に現れた特異な地震動の強さと、構造物の被害は、三次元的な深部地下構造に大きく影響されていることが判明した現在、これらの要因を考慮した「都市における地震防災のための地盤図」の計画的整備を早急に進めることが重要であります。

2.「都市地震防災地盤図」の内容とイメージ

具体的かつ詳細な実施計画内容は、関係者により今後1ないし2年程度の期間で、ケーススタディを行いながら検討する必要があると考えますが、都市の地震防災計画の基礎資料として必要な、三次元の深部地下地質構造を反映した解析を可能にし、あわせて、表層地盤による影響も考慮した地表での加速度や震度の解析、さらには液状化の予測解析などを可能にする基礎資料となる地盤図とする必要があります。

その表現イメージとしては、地盤構造を三次元的に表現したもので、基盤の分布構造、断層の位置や変移量、浅部の詳細な地盤地質分布(人工改変を含めた)、各地盤の動的特性、地下水分布などの可能な限り広範囲な情報を織り込むことが望まれます。浅い深度の地盤地質情報は、土木構造物の基礎調査として行われた資料がこれまでも利用されてきましたが、今後もさらなる努力を重ねて収集していくことが必要です。しかし、どの都市でも500mとか1000mに及ぶ深部の地下地質情報はきわめて未整備です。また、褶曲したり、断層で変異したりしている地質構造はボーリングという点の調査では、調べることがきわめて難しいため、これまで行われることが少なかった反射地震探査などを計画的に実施し、深い深度のボーリング調査の結果と併せて総合的に解析することが必要です。

兵庫県南部地震では、神戸の大深度地下地質に関する資料がないことから、地震の後で、急遽深いボーリングや反射地震探査が実施されましたが、まさに泥縄式の調査が行われたことになります。

これらの調査は大きな予算を必要としますので、短期間にすべてを実施することは困難であります。その情報は段階的に進められる調査によって求められるものでありますから、地盤図は電子情報化し、絶えずアップデートできるようにすることが必要であり、資料はデータベース化の必要があります。

地盤図情報は公開を原則とし、関心のある人は誰でも利用できるとともに、その改良に誰でも貢献できるようにすることが必要であります。そのためにも、その成果物は情報の補足を可能にする電子媒体を想定しています。

3.「都市地震防災図」の整備のための方策

(1)整備に必要なデータの収集と補充

この地盤図の整備に当たっては、以下のデータを統一的に収集又は新たに補充し、データベースとして構築を図る必要があります。

・既存のボーリングデータを中心とした都市地盤に関する広範な資料
・1000mないし5000mメッシュ程度の測線配置による反射地震探査法による深部地質構造調査
・基盤に達する比較的深い(深度500mないし1000m程度)ボーリングの実施(5kmないし10kmメッシュ程度)による深部地質データ

既存のデータは、さまざまな機関によって実施され、公開されない状況の下で保有されています。構造物の基礎地盤調査は、建設省・運輸省・農水省などにより、また道路公団・首都高速道路公団など、さらに地方自治体によって実施されています。これらの調査の深度は、一般に数十メートルまでのものがほとんどです。さらに深い地質の資料は、地下水の調査で2~300mまでの情報が得られます。農水省・通産省や地方自治体が関係しています。もっと深い、1000m以上の深度に及ぶボーリング調査は、石油や天然ガスなどの資源調査を目的としたものが多く、通産省、石油公団あるいは石油資源開発に関係する企業が保有しているものがあります。

反射地震探査は、石油や天然ガス資源の開発に有効な調査方法として、その技術はとくに欧米で長足の進歩を遂げてきました。しかし、一般の地質調査には利用されることが少なく、とくに石油や天然ガス資源の貧弱な我が国では、普及した探査技術になっていないと言えます。しかも、その資料は一般には入手が難しい現状にあります。

このため、既存データの収集にあたっては種々な目的で行われた地質調査資料を、可能な限り網羅して収集することが望ましく、省庁横断的に収集を可能とする法整備(情報の公開とその運用基準など)と、受け皿となる組織(例えば、後述する「都市地震防災地盤情報センター(仮称)」)の整備が必要となります。

また、地盤地質に関する情報の他に、地盤の固有周期の計測データ、地震動の観測データ、などもデータベースとして含めることを考える必要がありましょう。

しかし、これらの資料が網羅的に収集されたとしても、都市の地盤に関して必要な深部地質構造を解析できる資料が集まる可能性は大変低いと言わざるをえないのが現状です。そのために反射地震探査法や深部ボーリングを新たに実施することによって、深部地質構造データを補充することがどうしても必要と考えられます。

都市の地震災害リスクを評価するには、また低減する対策を樹立するには、深部の地質構造を解明した上で、三次元の地震応答解析を実施することがきわめて急務であり、これはまた、兵庫県南部地震の大きな教訓でもあります。

(2)「都市地震防災地盤図・基本問題調査委員会」の設置

都市における地震防災のための地盤図に関する基本的問題を検討するために「都市地震防災地盤図・基本問題調査委員会(仮称)」を設置することを提言します。委員会には「制度調査部会」と「技術調査部会」を置き、以下の事項を審議します。

[制度調査部会]
・法整備
・組織
・予算措置および運用部地質データ

[技術調査部会]
・各機関による都市直下型地震の影響調査結果の総括および研究結果の総括
・既存資料の収集結果をもとに検討し、新たに取得・補充するデータの範囲とその方法
・「都市地震防災地盤図」の基本仕様
・対象とする都市の範囲とその優先順位

(3)「都市地震防災地盤情報センター(仮称)」の設立

前項の基本問題調査委員会の答申を受けて、このプロジェクトを推進する組織として「都市地震防災地盤情報センター(仮称)」を設立することを提言します。このセンターは、事業の実施機関となる各都道府県(或いは都市)の行う地盤図作成プロジェクトをサポートするもので、具体的には、予算の配分、データの収集と取得、データベースの構築、データの解析、評価、成果の普及などを総括的に管理するものです。

(4)予算の考え方と想定される規模

本プロジェクトを推進するために必要とされる経費については、データの収集と新たな取得、データベースの構築などの基盤整備に関する経費は国が負担し、具体的な地域を対象とした地盤図作成費は、地方自治体が負担すべきものと考えます。

現時点で想定される予算規模は、対象とする都市の数とその範囲にもよりますが、きわめて大きなものになる可能性があります。それは、深部までの反射地震探査、あるいは大深度のボーリングが大きな費用を必要とするためです。

そのために、さらに予備的な検討を進めることが望ましく、準備調査段階に1~2年の期間を置き、本提言の内容をさらに具体化する必要があります。

「都市地震防災地盤図」プロジェクトの全体としての実施予算規模に関しては、準備調査を進める中で具体化すべきものと考えます。

都市地震防災地盤図検討委員会 名簿

日本応用地質学会

小島 圭二 東京大学工学部地球システム工学科教授
中川 康一 大阪市立大学理学部地球学科教授
小坂 和夫 日本大学文理学部応用地学科教授
三谷 哲 株式会社熊谷組
田中 芳則 東洋大学工学部環境建設学科教授
石川 浩次 中央開発株式会社

社団法人 全国地質調査業社協会連合会

大矢 暁 応用地質株式会社
馬場 干児 応用地質株式会社
中尾 健児 川崎地質株式会社
田井中 彰 株式会社ダイヤコンサルタント
西垣 好彦 基礎地盤コンサルタンツ株式会社
藤城 泰行 社団法人全国地質調査業協会連合会