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全地連資料館

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平成9年4月4日、公共工事コスト縮減対策関係閣僚会議において「公共工事コスト縮減に関する行動指針」が決定され、さらにこの行動指針を踏まえ、公共工事を発注する主要官庁である建設省、運輸省、農林水産省の三省が同日付けで「公共工事コスト縮減に関する行動計画」を策定しました。

この度のコスト縮減に関する行動は、全省庁あげた総合的な取り組みであり、同様の措置が地方自治体にも求められており、単なる内外価格差の解消というレベルに止まらず、公共工事に構造改革をもたらすものと言えます。さらに、行動指針及び行動計画には、平成11年度末までにすべての施策を完了し、この期間中に少なくとも10%以上のコスト縮減を目指すという具体的な数値目標が設定されております。

そして、このコスト縮減策で特徴的なことは、10%以上の縮減のうち、建設事業の上流部である工事の計画・設計等の見直し、工事発注の効率化等によって6%以上を縮減しようとしている点であります。このことは、建設事業の最上流部に位置する地質調査業が、建設工事のコスト縮減にどのような役割を果たすかを明確にし、具体的な行動をとることが求められていると理解すべきです。

このため、当連合会では、技術委員会に「コスト縮減問題に関するワーキンググループ」を設置し、日本がおかれている地形地質環境、地質調査成果物の特性、建設事業各段階における地質調査の役割等を明確にしつつ、建設工事のコスト縮減に貢献する地質調査業あり方を検討し、ここに「建設工事のコスト縮減に関する地質調査業の意見表明と行動指針」をとりまとめました。検討にあたっては、地質調査成果と建設コストに関する事例を収集・解析し、裏付けのある行動指針となるよう心掛けました。

以下に行動指針の「要約」を掲載します。ご意見などをお寄せいただければと存じます。

要約

1.ジオ・ドクターとしての地質調査業

我が国は、他の先進諸国には類例を見ないような脆弱な地質環境下にあり、建設プロジェクトを安全に、経済的に遂行するためには、日本の特異な地質事象を熟知した「ジオ・ドクター(コンサルタント)」が必要であり、地盤に関して「調査→診断→対策」という一連の対応を講じ得る役割を果たす必要がある。

2.建設プロジェクトの各プロセスへの貢献

建設プロジェクトは、一般に「計画→調査→設計→施工→維持管理」のプロセスで行われる。これまでの調査はこの流れの中で、「計画→調査→設計」の対応に重点が置かれることが多かった。しかし、地質・地盤の問題は、各プロセスごとに特有の問題として潜んでおり、地質調査業がコスト縮減に貢献するには、ジオ・ドクターとしての中立性を保持しつつ、川上(計画・調査・設計)から川下(施工・維持管理)までのトータルサービスの要請に応えることが一層重要になる。すなわち、ジオ・ドクターの活躍の場を、建設プロジェクト全般にわたって展開して行くことが必要である。

3.コスト縮減に向けた地質調査業としての行動指針

地質調査事業量が建設投資総額に占める割合は0.3%程度に過ぎないが、調査の成果が建設コストに与える影響は大きい。そのため、社会資本のライフサイクルを考えたトータルコストの縮減に対し、地質調査が貢献しうる課題を明確にし、その行動指針を提示する。

3.1 地質調査業が取り組むべき課題と行動指針

建設工事のコスト縮減に貢献するために地質調査業が取り組むべき事項は次の通りである。

(1)調査目的に合った的確な調査の実施、ISO9000sの導入などにより、調査精度の向上や品質システムの構築を図る。
(2)ハード・ソフト一体型産業という特性を踏まえ、調査機器の開発や顧客のニーズに沿ったソフト技術の開発を図る。また、技術者評価制度を踏まえた人材の確保・育成を行うとともに、企業間の技術的連携を促進する。
(3)効率的な調査を行うため、契約後に調査内容の技術提案を行う「しくみ」を発注者の理解を得て積極的に活用する。
(4)コスト意識を持って調査を実施するとともに、建設工事のコスト縮減を意識した成果物のとりまとめを行う。

3.2 地質調査業から考える政策的課題

地質調査業がより効果的にコスト縮減に貢献するために、行政機関や発注機関にその実現を期待する政策的課題は次の通りである。

(1)現行のプロポーザル方式の通達で例示されている地質調査業務はかなり限定されているが、この方式に馴染む業務範囲はもっと広いと思われるので、透明性を確保した上で、積極的に活用すべきと考える。
(2)地質調査の専門性が生かされ、発注者の自由度が確保される柔軟な発注仕様を整備する必要があると考える。
(3)効率的で、精度の高い調査を実施するためには、汎用性があり、オープンな地盤情報データベースの整備が必須であると考える。
(4)地質調査は、建設事業の最上流部にあり、後続の設計や施工に対し独立した産業として分離発注が原則となっている。今後、発注形態が多様化してくることが予想されるが、いずれにせよ、地質調査固有の技術が評価される「しくみ」が作られることが重要と考える。
(5)現行の設計基準等はN値万能の傾向が強く、詳細に行われた計測・試験の結果が十分利用されずコスト縮減を阻害している面がある。このため、地質調査成果が生かされる設計基準等に見直しが図られることが必要と考える。
(6)設計VEに対する評価を考える際、地盤要因が極めて重要である。このため、設計VEの評価に中立的な立場で地質調査技術者が参画する「しくみ」を作る必要があると考える。

4.地質調査費用を縮減するための方策

今問われているコスト縮減策は、建設事業のライフサイクルコストに対してであるが、建設事業に係わるそれぞれ分野においてもコスト縮減に向けた対応を図るべきである。このような視点から、地質調査業として次の課題に取り組む。

(1)無駄や手戻りが生じないような、綿密で、適切な調査計画の立案を行う。
(2)現地調査や既存資料の検討により事前に地盤上の問題点を把握し、適切な調査項目と調査数量の提案を行う。
(3)発注後であっても顧客の必要とする地盤情報を考慮し、専門家の立場から技術協議の場を通じて、より効率的な調査計画の変更提案を行う。
(4)地質調査そのものコスト縮減を図るため、現場での調査・計測に係る省力化機器の開発を行う。