日本列島の地質と地質環境

地震による災害

複雑な地殻の上に形成されている日本列島は、常に災害の危険にさらされている。特に地震に関しては、主要都市での対策が不可欠だ。

阪神・淡路大震災を引き起こした野島断層
地震とともに延長約10kmの右横ずれ断層が淡路島西岸沿いに出現した。
(誠文堂新行社、子供の科学、1995年4月号から引用)

数多くある自然災害の中でも、特に巨大災害への危険性をはらんでいるのが地震災害といえる。
1995年1月に発生した阪神・淡路大震災は、大都市に内在する地震災害への脆弱性を見せつけた。地震発生のメカニズムは十分に解明されているとは言い難い。今回の地震で一般市民にも認知させるところとなった活断層、このずれがもたらずプレート内部地震に対しても、現在全国的な規模で実施されている調査研究で、新しい知見が得られつつあるところだ。

火山による災害

地震とともに多くの被害をもたらす火山災害。風光明媚で温泉の恵を与えてくれる火山も、ひとたび活動が活発化すると、周辺一体への影響は大きい

1914年(大正3年)の桜島の大噴火 手前は鹿児島市街地

火山活動による災害は、火山灰等の降下物や溶岩流等の流下物が原因となる事例の他、大規模崩壊、降雨時の土石流等もあげられる。桜島では、1914年の大噴火による溶岩流によって、大隈半島と陸続きになった。その後、1946年、1972年、1984年の噴火を含んで活発な活動を続けている。国内で注意を要する火山は86火山(北方領土10火山を含む)ある。しかし、噴火の予知として常時観測が行われている火山は24にすぎず、防災体制の充実が望まれる。

斜面災害

地形・地質ともに不安定な日本の山地。その険しく急な地帯を縫って、日本の交通路は伸びていく。

山梨県内、中央自動車道法面崩落 (撮影:国際興業)

急峻な地形を呈する山地部では、脆弱な地質と相まって降雨や地震等の影響で崩壊が発生する。山腹斜面で崩壊が発生すると、崩壊地は急速に拡大し下流域に多量の崩壊土砂を流出する。豪雨時には大規模な土石流も発生しやすい。
わが国の交通路は、山岳地帯の通過延長が長くトンネルや切土区間が多くなっている。地形が急峻であることから、斜面はコンクリート吹付・擁壁等の保護工が施工されて安全性が高められる。しかし、複雑な地質状況に加えて風化や変質で強度的に不均質な地山であることが多く、降雨や地震の影響で崩壊が発生することになる。
道路沿いの斜面等については、ほぼ5年毎に全国的な防災総点検が実施され、ハード・ソフト両面からのメンテナンスを行っている。

地すべり

地すべり防止地域は、全国で6800ほど。地質分布との関係が密接な地すべりは、日本列島の脆弱な地質に多発している。

地附山地すべり全景 (信州大学自然災害研究会、1986から引用)

1985年7月、長野市地附山の南東斜面で発生した地すべりは、幅500m、長さ700m、深さ60mにおよび、移動土塊は360万m3に達する大規模なものであった。この地すべりは26人の犠牲者を出すとともに、末端の団地を直撃して多大の被害を与えた。各種の計測機器で適切な動態観測を行うことにより、崩壊発生時期を予知することは可能だが、予知・予測上の問題点や課題を多く残している。

その他の災害

人口が集中する平野部では、古くから生活用水等を地下水に頼ってきた。しかし、それはやがて、地盤沈下という災害を引き起こした。

わが国は、国土の70%以上が山地または丘陵で、そのままの状態で人間が住める土地は、台地の11%、低地の14%を合わせた25%程度に過ぎず、この面積の中に全人口のほとんどが集中している。
人口集中地域では、生活に必要な地下水のくみ上げが古くから行われていたが、地下水位の低下が原因となって地盤沈下が生じるようになった。
初期における地盤沈下は平野部の沖積層の沈下が主体をなし、一般的には海岸線に近いところに最大沈下域(沈下の目玉)が出現する。しかし、水位低下が大きくなると、洪積層の沈下が主体となり、沈下の目玉が内陸に移動することが知られているので、注意深く監視することが重要である。
このような地盤沈下現象の防止を目的として、「工業用水法」や「建築物用地下水の採取に関する法律」が制定(1956年、1962年)されたことで、1970年代以降の地盤沈下は沈静化の傾向をたどっている。場所によっては地下水の回復に伴い、逆に構造物を浮き上がらせるような力が働き、被害を生じているところもある。

地下水に関する問題

地下水に関しては、陥没事故やトンネル工事での異常出水という災害も発生している。これらを未然に回避するための調査が、ますます重要となる。

断層によるトンネル湧水 (新神戸トンネル、工事誌から引用)

・空洞の形成と陥没事故
わが国の主要な都市は“軟弱地盤”であり、その結果地下水流動が早く、大きな水位変動を伴う。加えて都市部の土木工事は地下水を強制的に低下させてきた。このような地下水の動きは、地層中の細粒分を流出させ、空洞を発生させることがある。そしてこの空洞は地表面陥没を引き起こすことになる。現在の空洞調査では、地中レーダーの改良に加えて各種物理探査を組み合わせた調査手法が開発されており、陥没事故を事前に防止するのに貢献している。

・トンネル湧水
山地を構成する岩盤は堅硬であるとは限らず、活発な地殻変動により多くの断層や破砕帯、変質帯を伴う。これによりトンネル掘削では地下水の異常な大出水が発生し、災害につながることがある。トンネル工事に難渋した例は多く、いずれの場合も工事費の増大、工事期間の大幅な延長を必要とした。このような問題は事前の詳細な地質調査で把握できるもので、経済的なルート選定に役立てることができる。