メール:jgca@zenchiren.or.jp
電話:03-3518-8873/FAX:03-3518-8876
アクセスはこちら

全地連資料館

全地連が今までに作成した資料を掲載

脆弱な日本列島

プレートテクトニクスからみた日本列島

私たちが暮らす日本。その足元を「地殻」という視点で見てみよう。実は日本列島は、世界に類例のない、複雑な地殻の上に作り上げられている。

日本列島は、地球を覆っている十数枚のプレートのうち4枚のプレートの衝突部にあって、世界的にも活発なサブダクションゾーンのフロントに位置している。この列島は北米プレートとユーラシアプレートの2つの大陸地殻にまたがり、さらに太平洋プレートあるいはフィリピン海プレートの沈み込みによって2方向から強く圧縮されている。
最近注目され始めた房総沖と伊豆半島付近の2ヶ所のトリプルジャンクションの存在は4つのプレートがぶつかり、せめぎ合う場として世界に類例がなく、日本列島がいかに複雑な応力場に支配されているかを示している。
マグニチュード7以上の地震は世界中でこの90年間に900回ほど起きているが、そのうち10%もの地震が日本で起きている。マグニチュード8クラスの巨大地震も日本海溝や 南海トラフといったサブダクションゾーンに集中し、ここでのプレートの衝突がいかに激しいかがわかる。
さらに太平洋プレートの日本列島下への活発な沈み込みは、日本列島を世界でも有数な火山列島にしている。
このような日本近海のプレート運動は、島弧に強い歪みを与え世界でも有数の地震多発帯、火山活動多発帯といった自然災害の場を形成し、また地殻の上昇も加わって、非常に脆弱な地盤をもつ日本列島を作り上げている。

日本の地形の特徴と狭い国土利用

面積38万km2の国土を持つ日本。しかし、そのほとんどが山地などであり、1億2000万人の人々が安心して住める場所はわずかしかない。災害と隣り合せの開発が進む。

神奈川県横浜市市内の急傾斜地 (建設省土木研究所砂防部資料から引用)

日本列島の地形は、「山地」、「丘陵」、「台地」、「低地」および「内水域など」の5つに区分され、そのうち「山地」と「丘陵」の占める割合が約73%であることから、島国であると同時に山国であると言える。
これらの地形は、豪雨や地震など自然の影響により変化しており、その過程において数々の自然災害が発生している。また地形変化は、人口増加や都市化にともなって、人為的な丘陵・台地の斜面造成、さらには低地の発展とともに、その延長上にある海岸の埋め立て造成へと拡大してきた。わが国では狭い国土の有効利用として、水害や土砂災害などに対してリスクの高いところに、あえて開発が進んでいる。

山地では

日本は山地が多く、その上不安定な地形・地質となっている。土木工事等を進めるにあたっては、断層や地すべり、火山地帯など、常に困難が存在している。

グリーンタフ地域の泥岩の膨張 上越新幹線・中山トンネル

日本列島は、活発な地殻変動により山地が発達し、温帯多雨という気象条件により著しい浸食作用を受け、複雑で不安定な地形・地質によって形成されている。そこには土木地質的観点から困難な地質条件が存在する。
その中の1つ、膨張性地質は、押し出し量が大きく、強大な地圧が作用し、大変形を生じて崩壊に至ることがある。代表的な膨張性岩石としては、グリーンタフ地域の泥岩や温泉余土などの熱水等による変質岩があげられる。膨張は、トンネル工事中だけでなく、完成後に問題を継続することがある。

平野では

わずかな平野に人口が集中している日本。だが、その平野すら安定した地質ではない。その特徴や問題点を見てみよう。

わが国の平野には、東京、名古屋、大阪などの巨大都市が形成されているが、地質年代的に新しい沖積層で構成されていることから、地盤工学上の問題を多く抱えている。平坦な地表の下には起伏に富んだ埋没地形が隠れており、そこを埋める沖積層の厚さは一様でなく、軟らかい粘土やルーズな砂が主体であり、概して軟弱であることが特徴的である。
地下水位下に分布するルーズな沖積砂層では、地震時の液状化現象が問題になる。また、基礎杭を支持する基盤層が極端な凹凸を呈している場所もあり、同じ敷地に打設した基礎杭の長さが10m以上異なることもめずらしくない。
地盤の不同沈下、地震時の液状化現象など、平野部の地下には、建設工事を行う上でさまざまな罠が潜んでいるのである。

災害立国日本

地震による災害

複雑な地殻の上に形成されている日本列島は、常に災害の危険にさらされている。特に地震に関しては、主要都市での対策が不可欠だ。

阪神・淡路大震災を引き起こした野島断層
地震とともに延長約10kmの右横ずれ断層が淡路島西岸沿いに出現した。
(誠文堂新行社、子供の科学、1995年4月号から引用)

数多くある自然災害の中でも、特に巨大災害への危険性をはらんでいるのが地震災害といえる。
1995年1月に発生した阪神・淡路大震災は、大都市に内在する地震災害への脆弱性を見せつけた。地震発生のメカニズムは十分に解明されているとは言い難い。今回の地震で一般市民にも認知させるところとなった活断層、このずれがもたらずプレート内部地震に対しても、現在全国的な規模で実施されている調査研究で、新しい知見が得られつつあるところだ。

火山による災害

地震とともに多くの被害をもたらす火山災害。風光明媚で温泉の恵を与えてくれる火山も、ひとたび活動が活発化すると、周辺一体への影響は大きい

1914年(大正3年)の桜島の大噴火 手前は鹿児島市街地

火山活動による災害は、火山灰等の降下物や溶岩流等の流下物が原因となる事例の他、大規模崩壊、降雨時の土石流等もあげられる。桜島では、1914年の大噴火による溶岩流によって、大隈半島と陸続きになった。その後、1946年、1972年、1984年の噴火を含んで活発な活動を続けている。国内で注意を要する火山は86火山(北方領土10火山を含む)ある。しかし、噴火の予知として常時観測が行われている火山は24にすぎず、防災体制の充実が望まれる。

斜面災害

地形・地質ともに不安定な日本の山地。その険しく急な地帯を縫って、日本の交通路は伸びていく。

山梨県内、中央自動車道法面崩落 (撮影:国際興業)

急峻な地形を呈する山地部では、脆弱な地質と相まって降雨や地震等の影響で崩壊が発生する。山腹斜面で崩壊が発生すると、崩壊地は急速に拡大し下流域に多量の崩壊土砂を流出する。豪雨時には大規模な土石流も発生しやすい。
わが国の交通路は、山岳地帯の通過延長が長くトンネルや切土区間が多くなっている。地形が急峻であることから、斜面はコンクリート吹付・擁壁等の保護工が施工されて安全性が高められる。しかし、複雑な地質状況に加えて風化や変質で強度的に不均質な地山であることが多く、降雨や地震の影響で崩壊が発生することになる。
道路沿いの斜面等については、ほぼ5年毎に全国的な防災総点検が実施され、ハード・ソフト両面からのメンテナンスを行っている。

地すべり

地すべり防止地域は、全国で6800ほど。地質分布との関係が密接な地すべりは、日本列島の脆弱な地質に多発している。

地附山地すべり全景 (信州大学自然災害研究会、1986から引用)

1985年7月、長野市地附山の南東斜面で発生した地すべりは、幅500m、長さ700m、深さ60mにおよび、移動土塊は360万m3に達する大規模なものであった。この地すべりは26人の犠牲者を出すとともに、末端の団地を直撃して多大の被害を与えた。各種の計測機器で適切な動態観測を行うことにより、崩壊発生時期を予知することは可能だが、予知・予測上の問題点や課題を多く残している。

その他の災害

人口が集中する平野部では、古くから生活用水等を地下水に頼ってきた。しかし、それはやがて、地盤沈下という災害を引き起こした。

わが国は、国土の70%以上が山地または丘陵で、そのままの状態で人間が住める土地は、台地の11%、低地の14%を合わせた25%程度に過ぎず、この面積の中に全人口のほとんどが集中している。
人口集中地域では、生活に必要な地下水のくみ上げが古くから行われていたが、地下水位の低下が原因となって地盤沈下が生じるようになった。
初期における地盤沈下は平野部の沖積層の沈下が主体をなし、一般的には海岸線に近いところに最大沈下域(沈下の目玉)が出現する。しかし、水位低下が大きくなると、洪積層の沈下が主体となり、沈下の目玉が内陸に移動することが知られているので、注意深く監視することが重要である。
このような地盤沈下現象の防止を目的として、「工業用水法」や「建築物用地下水の採取に関する法律」が制定(1956年、1962年)されたことで、1970年代以降の地盤沈下は沈静化の傾向をたどっている。場所によっては地下水の回復に伴い、逆に構造物を浮き上がらせるような力が働き、被害を生じているところもある。

地下水に関する問題

地下水に関しては、陥没事故やトンネル工事での異常出水という災害も発生している。これらを未然に回避するための調査が、ますます重要となる。

断層によるトンネル湧水 (新神戸トンネル、工事誌から引用)

・空洞の形成と陥没事故
わが国の主要な都市は“軟弱地盤”であり、その結果地下水流動が早く、大きな水位変動を伴う。加えて都市部の土木工事は地下水を強制的に低下させてきた。このような地下水の動きは、地層中の細粒分を流出させ、空洞を発生させることがある。そしてこの空洞は地表面陥没を引き起こすことになる。現在の空洞調査では、地中レーダーの改良に加えて各種物理探査を組み合わせた調査手法が開発されており、陥没事故を事前に防止するのに貢献している。

・トンネル湧水
山地を構成する岩盤は堅硬であるとは限らず、活発な地殻変動により多くの断層や破砕帯、変質帯を伴う。これによりトンネル掘削では地下水の異常な大出水が発生し、災害につながることがある。トンネル工事に難渋した例は多く、いずれの場合も工事費の増大、工事期間の大幅な延長を必要とした。このような問題は事前の詳細な地質調査で把握できるもので、経済的なルート選定に役立てることができる。

日本列島と欧米の地質

日本と欧米の地質

日本と欧米の地質を比較してみると、日本の複雑さ、不安定さが浮き彫りになる。その違いを見てみよう。

日本列島の地質は、赤色系統の花崗岩をはじめ、火山岩類および堆積岩類がモザイク模様をなして複雑に分布し、多くの断層や活火山が存在する。これに対して欧米の地質は、各地質の1ユニットが広く分布し、断層が少なく地質構造が単調で、安定した大陸地塊を形成している。
同じ高密度な経済活動の中心地域でありながら、西ヨーロッパ・北アメリカ東部の地形・地質は安定しているが、日本はとても不安定であるという大きな相違点が存在している。

海底トンネルの比較

日本と欧米の代表的な海底トンネルを例に、地質を比較してみよう。ここでも、日本の地質の特徴が明かになる。

青函トンネルと英仏海峡トンネルの比較

  青函トンネル 英仏海峡トンネル
長さ(海底部分) 53.85(23.3)km 50.5(37.6)km
最大水深 140m 60m
最大土被り 100m 40m
地質 第三紀火山岩、堆積岩 中生代チョーク
施工性に関する地質条件 割れ目、断層などが多い湧水多量 おおむね均一、割れ目少ない湧水多量
掘削方法 主として在来工法(一部TBM) TBMシールド
トンネル構造 本トンネル(複線1本)+海底部のみ先進導抗作業抗 本トンネル(単線2本)+全長サービストンネル
工事期間 24年(1964~1988年) 11年(1984~1995年)
英仏海峡トンネルの地質断面図 (比較的単純な地質構造で地質の連続性は良い。)
青函トンネルの地質断面図 (断層破砕帯が多く複雑な地質分布になっている。)

青函トンネルは、1920年代の弾丸列車構想以来、1954年の洞爺丸事故を契機として1964年着工し1988年に開通した。青函トンネル部の地質は、第三紀火山岩・堆積岩が多くの断層により切られ、硬軟の変化に富む複雑な地質状況である。施工に際しては、多くの異常出水や膨張圧などにより難工事となった。
一方、英仏海峡トンネルは、層厚20m程度の中生代白亜紀のチョークマール層に沿ってルートを計画・建設された。ヨーロッパの安定した連続性の良い地質条件をうまく利用した例である。特筆すべきことは、海峡の水深が浅いという条件にも恵まれたが、このチョークマール層を把握するため、実に140本以上の海底ボーリングを実施し地質の相互関係を正確に確かめたことである。

日本とヨーロッパの岩盤状況

強い地殻変動を受け、層や割れ目が密な日本の岩盤、風化も進みヨーロッパの岩盤と大きな差を生じた。

氷河による浸食で風化帯がほとんどない北欧の山地(ノルウェー)
本州北端尻屋崎海岸に露出する石英閃緑岩

現在の岩盤は、氷河の影響も関係して形成されている。
北ヨーロッパや北アメリカの主要な地域は、寒冷期には広く氷河に覆われていた。氷河は移動するときに、その底面に分布する地質を削剥したため、氷河の融けた後には新鮮な岩盤が露出することになった。また、これらの地域は大陸の安定地殻であるため、岩盤の割れ目が少ない。
日本の場合も寒冷期に氷河があったが、高山の山頂部に限られたもので、大部分の地域で岩盤は長期にわたる風化作用を受けた。また、地殻変動により地質が複雑で、断層や割れ目が密に発達することが日本の岩盤の特徴といえる。これらの結果、風化作用は一様に進行せず、写真に見るように極めて不均質な岩盤状況が形成された。これが、土砂災害や切土法面の不安定化を招いている。